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断ぜよ神々〜冒頭陳述〜


「結論を申し上げますと、数ヶ月前に観測された霊波は、間違いなく『五番』のものです」
透き通った若い女の声が暗い室内に響く、と反響するように苦々しい音があちこちから響く。少なくとも『十七番』はそう感じた。
「やはりか……」
「しかしなぜ今になって?」
「観測されたのは確か東亜地区だったな」
「『十四番』、東亜地区といえば……」
「ああ、未確認ながら『七番』の霊波が現れたとされることだ」
そのことは『十七番』も聞いていた。数ヶ月前に突如現れた『七番』の霊波。一時間と経たずに消えたため、確認することはかなわなかっ たらしい。
「やはり、何らかの関連性が……」
「ある、と見るべきだろう」
「だが『五番』は既に『剥奪』された身だ。こちらからむやみに動いて刺激することもなかろう」
『十七番』がそう言うと『十五番』が同調した。
「賛成だ。アシュタロスの件もあることだしな」
「そうは言うがな、『十五番』。ある意味、アシュタロスよりも奴らの方がずっと厄介だぞ」
「うむ、『五番』の放置は危険すぎる」
「今奴は何処に?」
「トウキョウにいます」
『二十番』が素早く答える。
「位置は補足できているのか?」
「はい。かなり正確に」
「なら、監視状態のまま放って置けばいいいのでは」
『十八番』は気楽にそう言う。
「確かに普通の相手ならばそれですむだろう。だが、すまないからこうして話題に出ているんだ」
「神族としては奴が人間界にいるのは好ましくない」
「『神族として』? らしくない言葉だな『十三番』」
怪訝そうに『十四番』が言う。
「………」
「まず、『剥奪』が本当に成されているべきかどうかを知るというのは?」
「『七番』が関与しているならあまり意味はない。やつは『剥奪』されてないんだ」
「『八番』や『十一番』は?」
「彼らに関しては特に何も」
場が一旦沈黙する。と、そこに遅れてきた人影が映る。
「すまない、遅れた」
『十九番』だ。
「かまわないさ。今のところ会議は大して進んでないからね、ちょうどイレギュラーが欲しかった。『十九番』、君の意見が聞きたいな。 おおよそのことは聞いているはずだろう」
「『五番』が現れた、とのことらしいが……」
そこでもう一度、『二十番』が説明をした。
「……『五番』は今、人間界にいるんだな」
ややあって『十九番』が口を開く。
「ええ」
「……やはり『五番』は殺そう」
「できるのか?」
「アシュタロスのことで手が一杯なのは事実だが、やれば、懸念材料が一つ消える。奴が人間界にいることで、神魔族両方の上層部への言 い訳もたつ。問題ない」
「でも、相手はあのヤマタノオロチよ。私たちが出向くわけにはいかないし、かといって神族や魔族に任せられる人材なんか、そうはいな いわ」
『二十番』が諭すような声を出した。
「任せられる連中ならいる」
「誰?」
「第七特別部隊、通称暗殺部隊。私の所属する部隊だ」
「……つまり、自分に任せろ、ということか?」
「そうとってもらってもかまわない」
「だめだ」
『十三番』はがんとした声で言い放った。
「我々がヤツと接触するのは危険だといったはずだ。お前もわかっているはず。やつが『取り返す』ことにならんともかぎらん」
だが、『十九番』は反論する。
「『七番』も出てきてるんでしょ。そうした推論は既にお門違いじゃない?」
「ちょっと待て。それなら我々全員でもって一気に叩き潰す方がいいんじゃないのか?」
「『七番』と『五番』を両方同時に相手にして、こちらは何人生き残れるかしら?」
『十七番』の有無を言わさぬように『十九番』はぴしゃりと言い切る。
「……まあ、半分生き残れればいい方だろうね」
『十八番』が『十七番』の替わりにそう答えた。
「そうよ、そして、『五番』一人で『剥奪』されたままなら私一人で十分。わかる? 今この時期に仲間を半分も失うわけにはいかない。 けど放って置くには危険すぎる。いつ『七番』と『五番』が再会するかもわからない。つまり、私たちはもうやつが一人で『剥奪』された まま、という可能性を信じるしかないの」
『十九番』がそういった後、誰も何も言わなかった。彼女の言うことは決して間違いではないのだ。
「……異論は?」
再び沈黙。
「ではそういうことで『五番』の件は『十九番』に一任することにしよう。『二十番』、君には『七番』の捜索を頼む」
「わかりました」
「表向きの命令書の発行は?」
「私がやろう」
「ではそれは『十七番』が」
「それでは今回はここまで」
機器の電源を落とす。と、『十七番』の目の前が瞬時に入れ替わる。暗い丸テーブルから書類のたまった簡素な机に。面白さ、と言う面で はどちらも大差はない。
 『十七番』は右手をかざしていた水晶球を机の中にしまい、鍵をかけた。
「やれやれ」
未だにこの会議のやり方は好きになれない。他に方法がないというのはわかっていても。
「『五番』か……」
やつのことは話でしかきいたことがない。それはおそらく『十三番』も、『十四番』も同じはずだ。それなのに、いやだからこそだろうか 、彼らは『五番』をひどく警戒している。『十七番』には少し理解できなかった。
「しかしまあ、自分で言い出したことだ、やることはやらねばな」
ひとりごちて机の中から目的の書類を探し出す。
「あれ?」
ない。確かに滅多に使わないものであるから、なくなったことに気付かなかったようだ。
「ふう、面倒くさいな」
そう、もらした時だった。
 コンコン、と小さな音がドアからした。
「開いてるよ」
そして開いたドアの先を見て『十七番』は目を細めて言う。
「おや、誰かと思えば小竜姫か、久しいな」
「ごぶさたしておりました。大竜姫様」
来客は『十七番』にそう言った。






 数日後、雨が降り続く東京の空。灰色の雲が分厚く覆いかぶさり、ザーザーと間断なく水が落ちる。勢いはそれほど強くないものの、長 時間降り続いているので街は暗い。
「雨か、面倒くさいわね」
女──『十九番』──が漏らした。
「そうかい?」
横に立つ男は無邪気に尋ねる。
「好きなの?」
「いや、俺も嫌いだ」
「だったらなんで『そうかい?』なんて聞くのよ」
「なんとなくサリエルは雨が好きそうだったからかな」
「残念、はずれよ」
二人はいる場所はむき出しのコンクリートに覆いつくされてる、簡素な、というよりは何もない部屋だった。ところどころ、天井に穴が開 いていて中にある通風管がのぞいている。と、部屋のドアが開き、第三の声が割り込んだ。
「レミエル、サリエル」
まだあどけなさの抜けきらない少女の声。
「メタトロンが呼んでる。そろそろ準備しろ、だって」
「わかったわ。すぐいく」
サリエルと呼ばれた方が体ごと振り向くと彼女の背中に生えた白い羽が軽く動いた。彼らは俗に天使と呼ばれる。






 サリエル──『十九番』──が部屋に入ると残りのメンバーは既に集まっていた。その中の一人、奥に座った銀髪の天使が声を出す。
「遅かったな」
「呼ばれてからはすぐ来たわ、メタトロン」
メタトロンは顔を上げた。背中に生えた翼とはあまりにもかけ離れた顔のキズがよく目立つ。筋骨隆々とした大男で眼光はこの場にあって なお鋭い。
「呼ばれる時点で既に遅いんだ。まあいい、作戦の最終確認に入る。座れ」
というのでサリエルとレミエルは近くにあった適当な椅子に腰を下ろした。
「最後にもう一度だけ確認する。今回のターゲットは『武藤玄也』と名乗る魔族だ」
『十七番』はうまく仕事をしたようだった。 「ここから我々はばらばらにここを出発し個別のルートでやつの住処へと移動する。実際の殺害は私とサリエルで行う。ラジエル、ラグエ ル、君らの仕事は?」
「周りの見張り」
二人並んだ天使の少女──どうやら、双子らしい──のうち一人がそう答える。
「正解だ、ではレミエル君の配置は?」
「えー、何だったけかなー?」
「………」
「冗談、冗談。そんな怖い顔するなよ。あんたらが失敗した時に第二波としてターゲットを攻撃する。これでいいだろ」
「もっと緊張感を持て、レミエル」
「はいはい」
メタトロンはどうやらこれ以上の小言は無駄だと思ったらしく座っていた椅子から立ち上がった。人間で言えば四十代半ばほどに見える。 彼はゆっくりと部屋を横断するように歩く。
「では出発だ。各自のルートの確認は必要ないな。到着時刻は今より一時間後。最初に出発するのはラグエルだったな。行け」






 サリエルのルートは一直線に武藤玄也のマンションまで飛ぶルートだ。だから、出発時刻も他に比べて少々遅い。だが、彼女があらかじ め決められていた所定の場所に着くと、既に皆到着した後だった。
 彼女のいる場所は武藤玄也の住むマンションの屋上。彼女はそこから向かいの建物にいるメタトロンに合図をして、じりじりと降下した 。
 時刻は午前一時十八分。サリエルはそっと中を覗き見た。部屋の電気はついていない。もう寝てるのだろう。霊波にピントを合わせると ベッドの上で寝ているのが分かった。
(『剥奪』されているようだな)
じかに接すればわかる。自分達は賭けに勝ったのだ。
 問題ない。メタトロンにそう合図を送る。彼は一旦地面まで降下してからこちらに近付いてくる。その間にサリエルはガラス切りでベラ ンダのドアの鍵を開ける。
 そして、一気にドアを開いた。同時にメタトロンが室内に飛び込む。部屋の中で武藤玄也が慌てて起きる気配がした。
 サリエルもすぐさまメタトロンに続いて飛び込む。だが、室内では既にメタトロンが目標の喉にナイフを突き立て、殺していた。
「やりましたか」
サリエルはほっとした口調でそういった。だが、メタトロンは渋い表情のままだった。
「偽者だ」
「え?」
ぶわっと煙のように霊気が漏れ出した。同時に武藤の体がしぼんでゆき、最後にいっぺんの紙幣になった。メタトロンが忌々しげにつぶや く。
「人型というやつか」
その台詞が終わらないうちに異変が起こった。ぱちん、と音がしてフローリングの床が変形する。まるで壁がせりあがるように木片が積み 重ね上げられていく。
「ちっ」
メタトロンが脱出しようとするが間に合わない。木は立方体となると二人の周囲を取り囲んだ。
「これはっ……木角結界!?」
火角結界や土角結界と同じ魔族の五角結界の一つ、木角結界。相手をただ単に閉じ込めるだけという五角の中ではもっとも危険はないが破 るのが難しく、また発見などもされにくい。直接、攻撃できないのであまり使われないがそれでも有名な呪法のひとつである。
「時間稼ぎのつもりだな。サリエル、レミエル達に連絡は取れるか?」
「木角結界なら、平気です」
「よし、彼とラジエル、ラグエルに手分けして武藤玄也を捜して追うように言え。自力で脱出するぞ」
「はい。まずは三人に連絡しますね」
そういってサリエルは無線を取り出した。
「三人とも応答して。作戦変更よ。目標は既に逃げた後だったわ。今すぐ捜し始めてちょうだい。こっちはちょっとした罠にかかったけど 自力で脱出出来るから。罠の性質から考えて近くにはいなさそうよ」
「了解」
「了解」
「了解」
サリエルは無線をしまう。その間にメタトロンは周りの木角結界を丁寧に調べていたようだった。
「連絡はしたか」
「終わりました」
「よし、思いのほか雑に作られた結界だからそんなに苦労することはなさそうだ。この部分が少し弱い。木角結界を破ったことは?」
木角結界を破る方法は非常にシンプルだ。ただ結界に衝撃を加え、壊すのみ。というより、それしかない。結界は魔力によって強化された 木の繊維が複雑に絡み合って作られている。特定の鍵など無い。
「あります」
「なら、要領はわかっているな。必要なのは強力な一撃よりも素早い連打だ、交代で一点集中で攻撃する。やるぞ」
「はい」
サリエルはすっと両手を結界に向けた。手に霊子を収束させ、かつそれを細かく分断する。
「はっ!」
パパパパパと、まるでマシンガンのように霊弾が壁に打ち込まれていく。ある程度たったところでメタトロンが声を上げる。
「代われ!」
「はい!」
サリエルが連射を終わらせるとサリエルが攻撃したところにメタトロンが近付く。そして、
「ふっ!」
メタトロンの手が消えた。サリエルにでさえ、そう思わせるほどメタトロンの動きは早かった。自らの拳を直接結界壁にたたきつけている らしいことだけは辛うじて分かる。やがて……

 ずどんっ!

「ようやく出れましたね」
ぱらぱらと霊力のこもった木片を当たりに払いのけながらサリエルは言う。
「うむ。意外と時間がかかった。サリエル、三人に連絡して現状を確認してくれ」
「はい」
サリエルは通信鬼をとりだして一斉通話の状態にする。そして同時に三人に呼びかけた。
「ラジエル、ラグエル、レミエル。サリエルだけど応答できる?」
「あ、サリエル。ラジエルだよ。今のところ東京駅あたりの上空にいる。目標はまだ見つからないよ」
「ラグエルです。現在東京中心部より西に200キロほど移動した場所にいます。同じく目標は見つかりません」
「そう、わかったわ。レミエル、あなたは? ……レミエル?」
応答が無い。
「どうした?」
「レミエルと連絡が取れません」
メタトロンは顔を引きつらせた。任務中、彼ら同士で連絡が取れないと言うことは二つしか可能性が無い。交戦中か、死んでいるか
「ラジエル、分かれたときにレミエルはどっちに向かった?」
「と、とりあえず、北に向かったけど」
「北ね」
そう声が漏れた瞬間、メタトロンが駆け出した。
「メタトロン様、お待ち下さい!」
だが、彼は制止の声を無視して飛びだった。しょうがない
「一旦集合よ、ラジエル、ラグエル。場所は最初に集合したところ……いえ、襲撃したマンションがいいわ。私はレミエルの状態を確認し てから戻るからよろしくね」
それだけ言って、サリエルはメタトロンの後を追った。
(どういうこと!?)
その疑問に対する回答自体は簡単だ。敵はこちらの襲撃をあらかじめ知り、こちらを迎撃した。自分達を罠にはめて足止めし、その間に別 れた隊員の一人を狙い撃ちしたのだ。問題はどうやって知ったのか?
(やはり『剥奪』はうまくいってないの?)
それもおかしい。もし、そうなら木角結界などといったちまちました呪法をつかる理由はない。
 考えているうちに、メタトロンの霊波がとまったのがわかった。見下ろすと大通りの中央分離帯に彼はいた。傍らに制服が落ちている。
 神族と魔族は体が霊子によって出来ている。普段は薄い皮膜がそれを覆い、中身がもれるのを最大限防いでいるが(どうしても完璧には 防げない)、傷が出来ればそこから大量にもれ出てしまう。漏れ出過ぎると、どうなるのか? 体から霊子がなくなり風船のようにしぼん で死ぬしかない。よって神族が死ぬと痕跡はほとんど残らない。死ぬ前に来ていた服とわずかな霊気が唯一の墓標だ。
「……メタトロン様、いったん、戻りましょう。作戦の練り直しをしなければ……」
「……ああ」
彼は無表情のまま、そううなずいた。






「レミエルが……?」
「嘘……」
ラジエルとラグエルの声はとても信じられないという風だった。無理もないが。
「本当だ」
メタトロンが重苦しい声でそう言う。
「そんな……」
味方を失う。何度経験してもこれだけは慣れない。サリエルは憂鬱な気分で椅子に腰をおろした。
「私の見通しが甘かったせいだ。敵は思った以上に危険な存在だった」
メタトロンがうなるように言う。
「どんなに危険性が低くても戦う以上、死はつきものです。レミエルに覚悟はあったはずです」
無駄とは分かっていてもサリエルはそう言った。言わざるを得なかった。
「どうするの? 一時撤退する?」
「馬鹿、ラグエル。そんなことできるわけないでしょう」
「ラジエルの言うとおりだ。与えられた任務は必ずこなす。それが我々の誇りだったはずだ。また任務の性質上、援軍を呼ぶことは出来な い。我々四人でやりきるんだ」
メタトロンは断固としてそう言い放った。
「レミエルのかたきもうたなきゃいけないしね」
ぽつりとラジエルが付け足す。空気が重くなった。
「とりあえず、こうしてても仕方が無いわ」
サリエルが率先して立ち上がる。
「何か手がかりがあるかもしれない。一旦この家を洗い出しましょう」
実際に有用かどうかはともかく動き続けることが彼らにとって必要だった。






 武藤玄也という男はきれい好きだったのか、家の中は整頓されていた。だがよくよく見てみるとそれは彼がきれい好きと言うよりも単に 部屋の中にあるものが少ないだけのようだった。そういうわけでサリエルたちが家の中を引っ掻き回すのには大して苦労はしなった。
 捜索を始めて五分ほどでラグエルがパスポートを見つけた。
「国外に逃げようとしているわけではないみたいですね」
「そうとは限らないでしょう。相手はが人間ならいざ知らず、魔族ならば、そんなもの必要ないでしょう」
「偽造品? でもよくできてるね」
ラジエルがラグエルの後ろからひょいっとパスポートを覗き込んだ。
「いや、偽造品ではないだろう」
そういったのは武藤の机の中にあった書類の束を調べていたメタトロンだった。
「武藤玄也は魔族でありながら、人間としての戸籍もちゃんと持っていた。おそらくそのパスポートは正規のものだろう。ところで、ラグ エル」
「はい、なんでしょう」
「ちょっと聞きたいんだが、このマンションには駐車場はあったか?」
「え? はい。表の通りに面した敷地内に」
「じゃあ、その中にバイクはあったか?」
「バイク? え、そこまではちょっと……」
ラグエルがそういい淀むとメタトロンはラグエルに写真を一枚手渡した。
「じゃあ、下に行ってこの写真に載っているバイクがあるかどうかちょっと見てきてくれ。サリエル、霊波検索機と人間界のネットワーク を繋げてくれ」
「あ、はい」
「何かわかったの」
ラジエルがそうたずねる。
「もし、武藤玄也が魔族としての力をフルに使っているなら我々が気付いていないはずがない。我々が気付けなかったということはあいつ が今のところ逃走手段として使用している可能性があるのは普通の人間と変わらないということになる。つまり、車、電車、飛行機、船だ 。パスポートが残っていると言うことは国際線の船や飛行機ではない。もっとも考えられるのは車だ。何故はられていた木角結界の強度か ら考えると、ここを逃走したのはつい最近、ほんの三〜四時間前といったところだ。ならこの公共交通機関が動いていない深夜では選択肢 が非常に縛られる。そんなものを逃走経路として利用するのは余程の理由がない限り、ない」
「と、いうことは……」
そのとき、ラグエルが部屋に飛び込んできた。
「ありません! バイク置き場はからです!」
「サリエル、高速道路のカメラとリンクさせ、敵の霊波を検索しろ」
「はい」
時間はそうかからなかった。
「見つかりました」
「どこだ?」
「駒形の料金所です。今から一時間半ほど前にそこを抜け、南に移動したようです。渋谷で再び高速を降りてます」
「南だと? 時刻はわかるか?」
「渋谷から降りたのが一時間ほど前ですね、ですがそれが……あ!?」
「そうだ。レミエルが殺されたのはここより北だが、一方でやつが向かったのは南だ」
「ということは?」
「状況から見ても何者かが手助けしているのは間違いないだろう」
「魔族ね!」
ラジエルが唇をかむ。
「ここから一番近い魔界へのゲートは?」
「京都にあります」
「先回りしましょ!」
ラジエルは飛び出さんばかりの勢いでそう言う。しかしラグエルは静かに反論した。
「ううん、それより渋谷から降りてから30分しかたっていないならまだ近辺にいるはず。そっちを捜した方が……」
「でも早めにゲートを押さえとかないとそこを通って魔界に逃げられちゃうよ!」
「二人とも落ち着け」
メタトロンがそう言った。
「二人の言うことは確かにもっともだ。二手に分かれよう。まず京都のゲートだが、これは私とサリエルが抑えておく。ラジエルとラグエ ルは引き続き捜索を続けろ。ただし、敵を発見しても攻撃するな。敵はレミエルを一瞬にした倒すほどの技量の持ち主だ。単独行動は非常 に危険だと言うことを心得ろ」
「了解しました」
「わかってる」
「では散開。定時報告は十分ごとに行え」






 そして三十分後。サリエルとメタトロンは京都タワーに降りた。
「よし、いいだろう。ここからなら魔界へのゲートが見える。今、何時だ?」
「三時十二分です」
「一時間半ごとに交代で仮眠を取ろう。最初はきみがとれ」
「はい、わかりました」
だが、仮眠を取って一時間ほどたった頃サリエルはたたき起こされる羽目になる。
「何があったのですか?」
「ヤマタノオロチが発見された」
「!」
「私はこれよりすぐラジエルたちと合流する」
「では……」
「お前はここに残れ」
「?」
「万が一ということもある。二人の報告が間違いでないとも限らんし、我々がやられる可能性もある」
「保険……という訳ですね」
そこまでの決意を持つか、この男は。
「そうだ」
「そういうことでしたら」
彼らだけに任せるのは若干不安だったが仕方がない。自分は『端末』である以前に一人の神族でもあるのだ。メタトロンが東に向かってと ぶのをサリエルいや『十九番』は黙って見送った。






 そして更にそれから六時間がたった。雨は相変わらず続いている。十五分毎に入る定期報告は最初に『目標を見失った』といった後から はずっと『現在引き続き捜索中』と言ってきている。
 変化があったのは午前十時十二分。緊急連絡がメタトロンから入った。
「サリエルです」
「ラジエルとラグエルがやられた」
「!」
「だが現在目標を捕捉し続けることに成功している。なるべく早くこちらに来い。お前が着いたら、一気に片付ける」
「はい」
ピッと通信が途切れた。
 『十九番』はほっとした。ラジエルとラグエルを失ったことはいたいがヤマタノオロチは殺せる。メタトロンが追撃しているのなら、も はや任務の成功は目前だ。『五番』の殺害にこれほどてこずったのは予想外だが終わりよければ全てよしである。
 サリエルは京都タワーから飛び立つと東へ向かった。
 やがて東京の高層ビル街が見えてくる。通信機を取って呼びかける。
「サリエルです。東京から西100キロほどの場所にいます」
「了解した。そこまでくれば私の居場所がわかるだろう。すぐに来てくれ」
「はい」
通信機をしまい更にスピードアップ。

 ズドン

(!?)
それは確かに銃声だった。そして打たれたのはまぎれもなく自分。腹部と羽に激痛が走った。
(どこから……?)
見つけるのは簡単だった。相手は自分の身を隠そうともせず、雨空の真ん中に突っ立っていた。両手で銃を持って瞳を真っ直ぐにこちらに 向けていた。
(バカな!?)
だがそれはあまりにも意外な相手だった。あっけにとられたその瞬間を狙い相手は更に弾丸を発射した。
(くっ!?)
回避しようとすると背中に激痛が走った。
(羽がっ)
最初の襲撃で既に片方の羽は使い物にならなくなっていた。それでも霊力を使ってとぼうとするが間に合わない。おそらくは相手の狙い通 りだろう。新たな銃弾はサリエルのもう一つの羽とチャクラを正確に打ち砕いた。地面が次第に近付いてくる。
(何故、あいつが……)
頭の中は混乱でいっぱいだったが、戦士としての体は別のことを考える。すなわち、身を隠すこと。霊力をはためかせ、重力を従えさせる 。
「がはっ!」
チャクラを壊されたのに無理をしたからだろう。口から赤い液体が出る。冷たい雨が体を一気に冷やす。落ちたところは人気のない公園だ った。身を隠す場所などどこにもない。相手はこれさえ狙っていたのだろう。
 その死神もまた公園に降り立つ。なぜか後ろにあるブランコがひどく滑稽に見えた。自分以上に。
「ふふふ……考えてみればお前しかいなかったんだよな。我らの目的を知りそして唯一疑われずに地上に来ることができるもの。お前だっ たのだな『二十番』」
『二十番』は答えない。静かに冷たくこちらに銃口を向けている。
「だが、何故だ? 何故我々を裏切った? お前にとって一体何の得がある?」
「………」
相手は答えない。よくよく見ると瞳の中にはまだ少し迷いがあるように見えた。
「武藤玄也に我々のことを伝えたのもお前だろう? そうか結局『剥奪』はうまく行っていたんだな。レミエルを殺したのもお前か? ラ ジエルやラグエルもお前だろう? メタトロンも殺したのか?」
「………」
「どうなんだ!! 答えろ、『二十番』! ……いや、もう、お前は『二十番』じゃない。裏切ったお前をもう誰も『二十番』とは呼ばな い!! 答えろ、ヒャクメ!」
「………」
それでも尚ヒャクメは黙ったままだった。傘も差さず全身を雨でぬらしながら、静かにそこに立っていた。

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